理事長ご挨拶

理事長挨拶
東北大学大学院医学系研究科 循環器内科学
下川宏明

 この度、肺循環疾患に関わる多くの研究者・医療関係者が参加して日本肺循環学会が設立され、その初代理事長を拝命いたしました。本学会を、国内の多くの関係者が情報交換しまた共同研究が行える場として、また、世界の関係者との連携を図る学術団体として発展させていきたいと思いますので、皆様のご理解・ご支援を、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

 肺循環疾患に関する国内外の歴史を振り返ってみますと、1973年にジュネーブ(スイス)で第1回WHO国際シンポジウムが開催された時が一つの出発点ではないかと思います。この時は、食欲抑制薬による副作用として肺高血圧症がヨーロッパを中心として女性に多発したことがきっかけでした。当時は有効な治療法もなく、10年で約半数が死亡したとされています。その後、ほぼ四半世紀の間動きがありませんでしたが、1998年に第2回WHO共催世界シンポジウムがエビアン(フランス)で開催されました。この時も食欲抑制薬による肺高血圧症の流行がきっかけでしたが、前回と異なり、エポプロステノールの持続静注療法が画期的な治療法として登場しました。また、肺動脈性肺高血圧症(PAH)という新しい概念が提唱されました。さらに、NYHAの心機能分類に対応して、肺高血圧症のWHO機能分類(エビアン分類)が発表されました。その後、2003年に第3回世界シンポジウムがベニス(イタリア)で開催され、PAHの概念は継承されましたが、原発性肺高血圧症(PPH)の呼称は廃止されました。また、エビアン分類で散発性PPHとされた原因不明のPPHを「特発性PAH (idiopathic PAH; IPAH)」に、家族性PPHは「家族性PAH (familial PAH; FPAH)」に変更されました。そして、2008年、ダナポイント(米国)で第4回世界シンポジウムが開催され、FPAHが「遺伝性PAH (heritable PAH; HPAH)」に変更され、肺静脈閉塞性疾患(PVOD)や肺毛細血管腫症(PCH)を1群から分離して、その亜型の1’群に分類されました(ダナポイント分類)。

 翻ってわが国では、1975(昭50)年から3年間、慶應大学呼吸循環内科の笹本教授が班長になり、厚生省特定疾患「原発性肺高血圧症」調査研究班活動が行われたことが一つの出発点ではないかと思います。この時は、まだ有効な治療法がなく、診断基準・疫学調査・治療の現状把握等が行われました。続いて、1982(昭57)年から「混合性結合組織病(MCTD)」調査研究班が組織され、PHを発症した膠原病は予後が悪いことが世界に先駆けて報告されました。また、1987(昭62)年には治療・病型・肺高血圧症に関するシンポジウムが東京で開催され、膠原病PHの診断基準が作成されました。続いて、1990(平2)年から3年間、国立循環器病センターで循環器病委託研究「肺高血圧症の成因・病態と治療に関する研究班」が組織され、PHの成因・病態・治療に関する研究が開始されました。さらに、1996(平8)年から、厚生省特定疾患「呼吸不全」調査研究班が組織され、PAHおよび慢性血栓塞栓性PH(CTEPH)を含む難病6疾患の調査研究が続いています。このような多分野における研究活動の結果、1998(平10)年にPHの難病2疾患(PPH, CTEPH)に治療費の公費負担が実現し、2009(平21)年には「肺動脈性肺高血圧症」に名称が変更され、事実上の適応拡大がなされました。

 こうした国内外の動きの中、多くの新薬が開発され、臨床に応用され、患者さんの予後も少しずつ改善してきましたが、依然として予後不良の疾患として、新たな病因の解明や新たな治療法の開発が待たれています。最近では、PHの病態・治療標的に関して、肺血管拡張から肺血管増殖の抑制へと考え方が大きく変貌しつつあります。

 こうした状況の中、日本肺循環学会が、多彩な分野の多くの研究者・医療関係者が参加して設立されました。この学会設立の背景には、次の3点があると思います。第1に、肺循環疾患は複数の分野にまたがる疾患であり、分野横断的な連携の必要性があり、また、研究者が定期的に一同に介する機会を持つことが重要であること。第2に、肺循環疾患の患者さんが、各々の都道府県レベルで同じレベルの治療が受けられるような患者さん本位の医療体制の充実が必要であること。第3に、わが国の高い医学・医療レベルの結集を図り、肺循環疾患を難病から治療・治癒可能な疾患へとするべく、世界へ学術的な情報発信を図る必要性です。

 幸い、多くの関係者の方々が本学会設立の主旨に賛同し、参加していただきました(設立時理事24名、評議員89名)。参加していただいた方々の専門分野は、内科系・外科系・小児科系・薬理・ 病理・看護学分野など、多くの分野にまたがっています。今後、こうした連携の輪を拡げていく中で、会員数を増やしながら、文字通りAll Japanの組織構成や学術活動につなげていきたいと思います。

 まだ産声をあげたばかりの学会ですが、全ての学会がそうしたプロセスを経て発展してきましたように、いろいろと創意工夫し、努力を積み重ねながら、本学会を皆様と一緒に発展させていきたいと思います。日本肺循環学会への皆様のご理解・ご支援を、何卒、宜しくお願い申し上げます。

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